小室哲哉は失われた風景を紡ぐ。

小室哲哉が引退する。

 

小室哲哉の楽曲といえば、ユーロビートなどのダンスミュージックをJPOP流にアレンジした派手な印象がある。しかし、それとは裏腹に彼の書く歌詞は常に切ない。

 

流れる景色を必ず毎晩みている

家に帰ったら ひたすら眠るだけだから

WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント〜」 H jungle with T

 

誰の目にも とまることないまま

街角のポスターは色あせて消えていく

「恋しさと切なさと心強さと」篠原涼子

 

どうして あんなに夢が素直に見れなくなってた?

街中でいる場所なんてどこにもない

体中から愛がこぼれていた

「I'm Proud」華原朋美

 

あなたがいなくても笑っている

ふっと ひとり部屋にいると

落ち着くような気がするけど

もうすぐ寒くなるのわかってるの?

「Sa Yo  Na Ra」globe

 

多分、小室哲哉には埋めることの出来ない大きな穴が空いている。

どれだけ曲を描いても、どれだけヒットを出しても埋まらない大きな空洞。

 

 

 

世間的には小室哲哉と言えば、90年代のTRF安室奈美恵のプロデュースワークが思い浮かぶだろう。だが、我々アラフォーからすると小室哲哉といえば何と言ってもTM NET WORKだ。

 

TM NET WORKを知ったのは、アニメ「シティハンター」のEDだった。

一般的には代表曲である「Get Wild」の人気が高いけれど、僕が好きな曲は「Still love her(失われた風景)」だった。

 

ノスタルジックな雰囲気のイントロから始まるミディアムバラード。小学生の頃はカセットテープで、38歳になった今ではiphoneで聴いている。失恋をする度に、この曲をよく聞いたものだった…(結構、聞く機会があったな)

 

youtu.be

 

 

今、この曲を聴くと いつも以上に切ない。

まるで小室哲哉とKEIKOの関係性を歌っているかのように聴こえる。

 

歌をきかせたかった 愛を届けたかった
想いが伝えられなかった
僕が住むこの街を 君は何も知らない
僕がここにいる理由さえも

もしあの時が古いレンガの街並に
染まることができていたら君を離さなかった

冬の日ざしをうける 公園を横切って
毎日の生活が始まる
時がとまったままの僕のこころを
二階建てのバスが追い越してゆく


12月の星座が一番素敵だと僕をドライブへと誘った

車のサンルーフから星をよく眺めたね
君はよく歌っていたね

もしあの歌を君がまだ覚えていたら
遠い空を見つめハーモニー奏でておくれ

冬の日ざしをうける 公園を横切って
毎日の生活が始まる
時がとまったままの僕のこころを
二階建てのバスが追い越してゆく

歌をきかせたかった 愛を届けたかった
想いが伝えられなかった
枯れ葉舞う 北風は きびしさを増すけれど
僕はここで生きてゆける

 

切ない。

特にこの部分。

 

君はよく歌っていたね

もしあの歌を君がまだ覚えていたら
遠い空を見つめハーモニー奏でておくれ

 

現在のKEIKOは、もう歌うことが出来ない。

歌いたいという欲望が無くなってしまったらしい。

カラオケに連れて行っても、まるで興味を示さないという。

もう歌っていた自分さえ覚えていないのかもしれない。

もう KEIKOは、あの歌を覚えてもいないしハーモニーを奏でることも出来ない。

あれだけ隆盛を極めた歌姫が。

 

 

そして、小室哲哉は引退する。

ただ、いずれ戻ってくる。

小室哲哉が抱えている悲しみや切なさは

表現という形で外に出さないと、彼の中で危うい形で蓄積してしまう。

 

復帰した時に彼が書いた曲や歌詞は

今まで以上に切なさを帯びているに違いない。